その1 本物の漆器
些細な冗談と気の利いたオチ、買い物客への彼の漆器の説明には多くの笑いが含まれている、短く流れるように漆器の良さを伝えながら買い物客の笑いを誘う。
漆器工房鈴武代表取締役、鈴木氏は実に雄弁だ、漆器を語らせたら止まらない。
「あなたは漆器を知ろうと来たからこうして沢山話てるけど、こんなに話していたらお客さんには嫌がられちゃうし、飽きられちゃうから短く面白くしないとね。ほとんどのお客さんは漆器の見た目には興味はあってもね、その良さにはあまり興味はないよ」そう彼は笑う。
そして彼は“本物の漆器”と何度も口にする。最初は単純に中国産の漆器が増えた中において純国産の漆器を本物と彼は言いたいのだろと思ったのだが、それは間違いだった。
時代の変化と共に人々の生活には多くの選択肢が生まれた。日々の食卓で使うのは漆器なのか陶磁器なのか、それとも合成樹脂製品なのか。漆器の素地は天然木なのか合成樹脂なのか、それともガラスなのか。漆液は国産漆なのか中国産漆なのか、または漆に似せた化学塗料なのか。
会津に漆器産業が根づいてから漆器を巡る環境は多くの変化を遂げ、そうした歴史を刻む中で“本物の漆器”はただの器ではなく、その歴史を内包した他にはない意味と魅力を持つ唯一の器となった。
些細な冗談と気の利いたオチをつけた話の中で何度も繰り返す“本物の漆器”
買い物客に楽しんでもらいたいという想いとは別の何かがその言葉には潜んでいる。それは彼の言う本物が失われつつある現状への怒りなのか、悲しみなのか。そしてその想いは同じく漆器を扱う同業者に対してなのか、それとも消費者に対してなのか。どちらにしてもそれはとても困難な戦いだ。
鈴木氏の言う“本物の漆器”
それは“安全で、美しくて、実用的で、修理ができて、地球にやさしい”のだ。