漆器工房 鈴武

introduction

会津の中心地からすこし離れた場所に漆器工房鈴武はある。漆器に携わることそれは戦いだったのかもしれない、取材の中で彼らは何度も“本物の漆器”と口にした。約400年の歴史を持つ会津漆器、繁栄と衰退を経た中で置き去りにされた本物の漆器が宿すその意味と魅力に迫ります。

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その8 本物を信じて

彼は「本物の漆器」を信じている。
「本物の漆器」が持ち手のライフスタイルを豊かにすると、そう信じている。
漆器の本物の姿を流れるように話す表情は厳しく、
時折みせる表情は笑っていても少しばかり悲しげだ。

厳しさの中に感じるのは本物の漆器への信頼で、本物を作り続けてきた自信。
少しばかり悲しげなのは、その意味が広まっていないから。

彼は「本物の漆器」が今の時代に必要だと信じているのだろう。

IMG_2041「本物の漆器」を通しての彼の語りには何度も襟が正された。
それは彼が「漆器」の存在も認めるからこそより一層襟を正されるのだろう、「漆器」の存在を必要としたのは生産者である彼らばかりではなく、消費者である我々もそうだ。
変化する市場の中で彼らは「漆器」を作らなければ生活が立ち行かなかっただろう、もしかしたら日常の中から漆器という言葉が消えてしまう事は耐え難いことだったのかもしれない、「本物の漆器」だけで日常の中に漆器という言葉を残し続けるのは難しい事だったのだろう。そして消費者側も「漆器」を求めた、それがどんな問題を引き起こすかなど誰にもわからなかったし、「本物の漆器」がどんなものなのか広くは知られていなかった。
庶民の生活の中に残るべき価値を持ちながら「本物の漆器」が人の生活から遠のいたのは必然だったのかのしれない、それでもその流れにはどこか人の弱さ業の深さを感じさせるものがある。

IMG_3183しかし「本物の漆器」の伝統技術は彼らによって、ここ会津に確実に受け継がれてきた。
彼らは「本物の漆器」の姿に魅了され今もその技術に磨きをかけ続けている。
庶民の生活の中から「本物の漆器」の姿が消え行く中で、「本物の漆器」の伝統技術が今もこうして受け継がれてきたのは、海外で漆器が“ジャパン”と呼ばれるほどに多くの人を魅了する卓越した技術力と芸術性を持ち合わせていたから、そして自然から生まれたからこその力強さを持ち合わせていたからかもしれない。

IMG_3174「本物の漆器を語り続けるよ」と彼は言う、そしてそれはもう意地だとも、意地でなくとも彼はきっと「本物の漆器」を語らずにはいられない、鈴武には「本物の漆器」に魅了され、人の弱さも業の深さをも認め受け入れた清々しく潔い男の姿がある。

投稿者: cool会津編集長