漆器工房 鈴武

introduction

会津の中心地からすこし離れた場所に漆器工房鈴武はある。漆器に携わることそれは戦いだったのかもしれない、取材の中で彼らは何度も“本物の漆器”と口にした。約400年の歴史を持つ会津漆器、繁栄と衰退を経た中で置き去りにされた本物の漆器が宿すその意味と魅力に迫ります。

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その7 漆と人間と自然

もう一つ言い伝えがある、漆木は人里ちかくにしか上手く育たないと。

漆林 会津市内のすぐ近く

漆林 会津市内のすぐ近く

漆液は漆木がその身を守る為に出す樹液で、漆木がその一生に生み出せるのはほんのわずかだ。人間はその“かぶれ”への抗体を身に着け、乾燥させてしまえばかぶれることがないことを知り、その抗菌作用をも経験として発見していた、そして何層にも塗り重ねる事で鏡の様な美しさを生み出し、何百年と使えるほどに堅牢なものへと変化させた。
強い“かぶれ”作用をもつ漆液を上手に使いこなせるのは人間だけ。

日光東照宮

日光東照宮

世界遺産・日光東照宮で2007年に始まった「平成の大修理」その過程で漆の塗り替えに中国産漆と国産漆が使われたが中国産漆の耐久性が低いことが判明した、その理由は国産漆がより日本の風土に適し、漆の主成分であるウルシオールの含有率が高いからだ。人間の手によって精製された漆、それはどんなに人間の手を介しても自然の力と共にある。

庶民の生活から「本物の漆器」が離れると同じくして環境ホルモンなどの問題が生まれた、その真偽の程はまだはっきりと解明されてはいないが、ものに溢れた世界に生きにくさを感じるのはそれが自然のサイクルに沿っていないからかもしれない。
漆と人間の共存は自然を守る事へつながってゆく、ラッカー(化学塗料)1年、カシュー(化学塗料)3年、漆400年と言われるほどのその耐久性に優れている。「本物の漆器」は人が生きるよりも長く存在し続ける、天然木と天然漆の本物の漆器それは役目を終えた時、自然にどんな負担をかけることなく還りゆき次の生命を生み出す為の糧となる。漆器はものが溢れる世界に歯止めをかけるだろう。
「本物の漆器」は自然が生み出すサイクルの中に溶け込んでいる、それは自然の恩恵を受け、自然に助けられ、自然に学び、自然に教えられてこの世に生まれてきたからだ。

400年の歳月に耐えうる漆(朱)

400年の歳月に耐えうる漆(朱)

漆木は“かぶれ”で他の動物からその身を守りながら人間が漆を使えるようにと人里近くにしか育たなかったのか、唯一その漆を使いこなせる人間がその手を幾重に介して精製しても、漆は育った自然の環境から大きな影響を受け続け、自然の力と共に生き続ける。
漆と自然と人間その関係はとても不思議。
漆はより永く人間と自然との共存を果たすために人間の側で沢山の事を教えてくれている。

投稿者: cool会津編集長