漆器工房 鈴武

introduction

会津の中心地からすこし離れた場所に漆器工房鈴武はある。漆器に携わることそれは戦いだったのかもしれない、取材の中で彼らは何度も“本物の漆器”と口にした。約400年の歴史を持つ会津漆器、繁栄と衰退を経た中で置き去りにされた本物の漆器が宿すその意味と魅力に迫ります。

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その5 「漆器」と「本物の漆器」

ここで彼の話す「本物の漆器」を天然木に天然漆を施したものとして、それ以外、合成樹脂やガラスなど素材や化学塗料などを使用したものを「漆器」としよう。

グラス(口にするもの)には天然漆に顔料を混ぜたもので絵付け

グラス(口にするもの)には天然漆に顔料を混ぜたもので絵付け

「本物の漆器」が庶民の生活から遠ざかるには、漆器に対して大量生産が可能だった陶磁器の広まり、その後にはさらに安価なプラスチックなどの合成樹脂製品の広まりがある。安価でデザインも多種多様、軽く、壊れにくく、壊れてもすぐに買い直せば良い、そんな合成樹脂製品が広まるのに時間は掛らなかっただろう、そんな手軽さと引き換えに日用品としての「本物の漆器」の影は薄くなっていった。
合成樹脂製品は多くの人々の生活を快適に彩るようになったが、広く使われるにつれて環境ホルモンの問題等が疑われるようになった、それらの人体に対しての影響は完全には明らかにはされてはいないが現在も懸念は残り続けている。
対して「本物の漆器」は完全に自然由来で出来ている、漆かぶれなどを心配する声もあるが、漆液は完全に乾燥させてしまえばかぶれの心配は一切ない。「本物の漆器」は熟練の職人が幾重にも手をかけかぶれも含め人体への悪影響は全く無い器なのだ。


天然漆の顔料(白) あめ色がかった半透明の透き漆に白の顔料を混ぜたもの

天然漆の顔料(白) あめ色がかった半透明の透き漆に白の顔料を混ぜたもの

彼が「漆器」と「本物の漆器」を分けて話すにはまずこの違いがある。
「漆器」には合成樹脂製品も含まれている、もちろん国の規定では安全とされている範囲内で作られているがそれでも安全性への懸念は残り続けている。
そして鈴武でも手鏡などの絶対に口にする事のない商品に限り一部化学塗料を使用している、そして彼も「漆器」を否定はしない。


ベースとなる漆があめ色がかっているため乾くとベージュのような色合いとなってしまう。

ベースとなる漆があめ色がかっているため乾くとベージュのような色合いとなってしまう。

化学塗料や合成樹脂製品などの流入によって「本物の漆器」は庶民の日常から遠のく結果となったが「漆器」は残った。消費者が「漆器」と「本物の漆器」の違いを詳しく知らずとも庶民の生活に文化は残ったのだ、「漆器」が多くの消費者の興味を引き、その興味が「本物の漆器」へと向かう役目を果たしてもいるのも事実だろう。


そして「本物の漆器」がその凄さを見せるのはその実用性の高さだ。

投稿者: cool会津編集長