その5 國権の酒

左上:佐藤杜氏
杜氏・佐藤さんに自分の造った日本酒で一番好きものは何かと聞くと、
「“てふ”だよ」
と答える。
「鑑評会金賞受賞の酒ではなくてですか」
「“てふ”だよ」
繰り返した表情は、杜氏としてではなく1人の日本酒好きなものとしての表情だ。

蔵人達
国権酒造で働く彼らはみな、自分達が造り上げた日本酒が大好きだ。
毎年、少しずつ気候条件は変わり、その環境の中で作られる酒米にも少しの違いが生まれ、井戸水にも違いが生まれるかもしれない。
そうした少しずつ変わる条件の中で彼らは自分達が大好きな“國権の酒”を造り上げて行く。
綿密に丁寧に、多少の調整を加え、米を育て、麹を育て、酵母を育て、醪を造り、酒を育て造り上げる。

蔵の事務所
多少の違いはその年の日本酒の出来に小さな違いを生むかもしれない、しかし精確に育て上げられた上での違いはまた新たな感動を飲むものに与えてくれるはずだ。
来年もまた彼らの造る日本酒は鑑評会で金賞を受賞するだろう、それはすでに目標ではなく、当然の事となっている。
金賞を受賞し続けること、それを求められ続けることはプレッシャーに違いない。
しかし、その姿は今年と何も変わらないはずだ、精確に一つ一つの工程を進めているだろう。
そうしてまた、國権の酒は造られる。