宗像窯

introduction

夜も完全に明けやらぬ頃、本郷瀬戸町通りには人が溢れ出す、8月の第1日曜日は本郷せと市だ、お城のあるところには窯元が栄えるとお城の瓦を焼いたのが本郷焼の始まり。郷土料理の鰊の山椒漬けは海が遠く山に囲まれた会津の貴重なタンパク源、そのために宗像窯の“にしん鉢”は生まれ、それはベルギーブリュッセル万国博覧会で最高賞を受賞することとなる。風土が宿る器から器が見せる世界への第一歩が宗像窯から始まった。

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その4 火の神様が宿る登り窯

④-16月3日、宗像窯の登り窯に火が入った。
ガス窯や電気窯が一般的となった今、登り窯はとても貴重な存在だ。本郷にも40程あった登り窯も今は宗像窯の登り窯のみとなった。
ガス窯や電気窯に比べ、古くから続く自然の力に耳を傾け火を操り続ける薪による登り窯の焼き方には、狙った以上に思いも及ばぬ美しい作品を生み出してくれる面白さがあるという。

④-2火を入れて2日目の夜、彼はそれまでと変わらずに柔らかな雰囲気で受け入れてくれた、気の張る工程だろうにそんな様子は見せず交わす挨拶の奥にはいつもと同じ静けさがある。
外は少し肌寒いくらいだったが登り窯を配した倉庫の中は暖かく、窯の中は真っ赤な火が渦を巻いていた。窯の表面に触れると温かいなと感じるまでに数秒掛かり、窯の中は1000度を超えているにもかかわらずその表面の温かさは優しいものだった。
薪をくべ空気を送り込み窯の温度を測り火を操る、ほぼ2日間休憩もほどほどに彼は火を見守り続けていた。
窯を閉じ次の薪をくべるまでの間ほんの少しばかり疲れた様子が見えた、
「気になってしまってね」そう言って柔らかく笑った。

④-3昔から作品には人格が宿るという。そしてその土地が持つ風土が大きく影響すると、この地が生み出す土やこの地の成り立ち、この地の者たちと陶芸家たちの生き方、そうした全てが作品には宿るのだろう。
「松やには、寒冷地において、松が自身を守るために付けるもので、寒い東の方だと沢山のやにが付いて強い火を作れるのですが、これが西の方だとそうはいかないようです」
火の強さも作品の出来上がりに違いを生む。
「これも風土なんですね」と言うと柔らかい笑みを見せた。

④-41200度ほどに窯の温度が上がるころ炎の色は赤からオレンジへ、渦巻くように炎は燃え上がり、その隙間から釉薬が溶けキラキラと輝く器が見えた。
また窯の表面に触れた、近寄ってはいけないほどの強い炎、なぜか少しでも近づき触れたくなる、窯の表面には静かに渦巻く炎の圧倒的な生命力の躍動が、その強い鼓動があった。
「神秘的でしょう」彼はいつもと変わらぬ様子で静かな視線を私に向けた。
渦巻く炎に守られるように輝く器の姿。時折、火の神を感じるのだと彼は言った。

④-5登り窯に火が入るとは告知前で知るはずもなく、思いがけずに4年ぶりに窯に火が入るタイミングで取材をお願いすることとなった。
強い力を持つ器は人をも呼び寄せる、私は彼の器に呼び寄せられたのだろうか。


宗像窯・宗像利浩が作り出す器。それを知るには彼との会話がまだまだ必要だ、だがそれが審美眼を磨く、そしてその本質を見極めるための一歩となるだろう。

投稿者: cool会津編集長